【あなたはどう裁いた?】歌織被告に「無期・死刑」が最多 厳罰求める傾向が顕著
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080429/trl0804291526003-n1.htm

MSN産経読者の「判決」
裁判員制度は厳罰化を加速させる-? 東京都渋谷区の三橋祐輔さん=当時(30)=の切断遺体が見つかった事件で、殺人などの罪に問われ懲役15年の1審判決を宣告された歌織被告(33)の判決公判に先立ち、MSN産経ニュースがネットユーザーに「あなたが裁判員だったらどのような判決を出すか」とアンケート調査をしたところ、約3800人から意見が寄せられ、88%が「有罪」と判断した。妥当と考える量刑は検察の求刑(懲役20年)を上回る「死刑・無期懲役」が最多(43%)で、「懲役15~20年」が22%で次いだ。厳罰を求める意識傾向が顕著に表れた調査結果になった。
■悪妻? 悲惨な妻? 精神状態は? さまざまな論点浮かんだ公判
今回の事件は、夫をバラバラに切断して遺棄するという猟奇性に加え、「セレブ夫婦」「DV=配偶者間暴力)」などのキーワードで世間の耳目を集めた。
公判では、検察側と弁護側の主張が真っ向から対立する展開に。
「DVで夫への憎しみを深め、被告は離婚を決意した。が、自分ひとりが惨めな生活をしたくはないと考え、慰謝料やマンションなどを得て、経済的に有利な条件での離婚を主導した。しかし夫から逆に離婚を切り出され、有利な離婚の実現が困難になったことで怒りが爆発し、殺害した」
これが検察側が描いた事件の構図だ。
対する弁護側は、「DVの連続で被告は精神的に追い込まれ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥り、自分の行動が制御できなかった」と主張した。
果たして歌織被告は「強欲で自己中心的な悪妻」だったのか、それとも「迫害され、追いつめられて心の病んだ悲惨な妻」だったのか。人物像や境遇をめぐって正反対の解釈が示された。
また、被告を精神鑑定した2人の精神科医が、ともに「心神喪失状態だったと推認される」との結果を報告。心神喪失であれば刑法39条の規定で無罪、心神耗弱なら減刑となるため、鑑定結果についての裁判所の判断が焦点となった。
4月28日の判決では結局、「犯行時には精神疾患を発症していたが、責任能力に影響を与えるほどのものではなかった」と歌織被告の完全責任能力を認めた。そのうえで、懲役15年(求刑・懲役20年)を歌織被告に宣告した。
■回答者3800人超…海外からも
MSN産経ニュースは、昨年12月の初公判から判決まで全14回にわたり、「法廷ライブ」の形式で法廷内のやりとりを詳報。歌織被告、証人、検察官、弁護人、裁判官の言葉はもちろん、被告のしぐさや表情などの再現にも努めた。
さらに今回、裁判員制度を意識した新しい試みとして、実際の判決公判前に、一般ユーザーに「判決」を問うアンケートを行った。
質問項目は、(1)歌織被告は有罪か無罪か(2)無罪の場合、その理由(3)有罪の場合、実刑と猶予刑のどちらが妥当か(4)猶予刑の場合、その理由(5)実刑の場合、どの程度の懲役刑が妥当か(「1~5年」「5~10年」「10~15年」「15~20年」「無期懲役や死刑」の5つに分類)(6)該当の刑を選んだ理由(7)そのほか自由意見-を設定。
募集期間は、すべての判断材料が出そろった結審後の4月19日から、判決直前の28日午前9時までとした。アンケートには論告求刑公判までの計13回の公判を再現した「法廷ライブ」をすべてリンクさせた。
集計の結果、有効回答総数は3812(男性2565、女性1247)。年齢は30代が最も多く、次いで40代、50代、20代の順。平均は43・8歳だった。居住地域は全国にまたがり、海外からも219の回答が寄せられた。
職業別では会社員や学生、主婦のほか、裁判官や弁護士といった現役の法曹関係者、精神鑑定の経験がある医師など幅広い層に及び、関心の高さがうかがえた。被告や被害者の知人とする書き込みも複数あった。
■量刑重い順に比率が多く…約半数が「死刑・無期」とは!
注目の「判決」は「有罪」が約88%と、約12%の「無罪」を圧倒的に上回った。
有罪を支持した人のうち、「実刑が妥当」としたのは約89%を占め、「猶予刑が妥当」は少数にとどまった。
刑期については、最多が「無期懲役や死刑」で約43%だった。「15~20年」が約22%でこれに次ぎ、「10~15年」約14%▽「5~10年」約12%▽「1~5年」約8%-と続いた。刑期が少なくなるにつれて割合は下がっていった。
検察の求刑は懲役20年、実際の判決は懲役15年だったが、インターネット上の「疑似裁判員」は厳刑を望む傾向が強かったといえる。
刑事訴訟法などは検察の求刑と判決の関係は何も規定しておらず、求刑された内容以上の判決宣告には問題はない。
「無期懲役や死刑」を選択した理由で目立ったのは、犯行の残忍さや鑑定結果への疑義だ。
「殺害後の遺体の処理がむごすぎる」(男性40歳)▽「殺人罪だけなら情状の余地が残されてもいいが、どのような精神状態であれ死体を損壊した時点でその余地はなくなると思う」(男性36歳)▽「証拠隠滅を図るために部屋を模様替えするなど人間性のかけらも感じられない」(男性45歳)-などと、夫をバラバラにしたことや遺棄、証拠隠滅行為を指弾する意見が多かった。
異常な犯行形態が「DV被害」という情状面を打ち消している-との考え方だ。
■「詭弁」…弁護活動への不信も
加えて、「『死人に口なし』とばかりに自分に都合のいいように証言している」(女性46歳)▽「反省の念が見えない」(男性36歳)-と、法廷での心証の悪さも加味されたようだ。
一方、「心神喪失状態だったと推認」した精神鑑定結果については、「犯行日より相当の日数が経過しており、正確な診断がなされたとは判断できない」(男性45歳)▽「そもそも異常な精神状態にあるからこそ殺人が起こるのであり、それをもって減刑要因としたり無罪とするのは論理矛盾だ」(男性43歳)-などと否定的なとらえ方が目立った。
実際の判決は、精神鑑定の結果の信用性を受け入れている。
また、刑法39条の規定や制度としての精神鑑定そのものに疑問を投げかける意見も少なくなかった。「この事件に限らず、(精神疾患を持ち出して)あからさまに減刑を狙う弁護側の詭弁(きべん)が目立つ」(男性30歳)といった弁護活動への不信感が背景にあるようだ。
■判決をズバリ“的中”させたプロも その中身は…
実際の判決に符号する「10~15年」「15~20年」とした回答理由は、「無期懲役や死刑」のケースに近いものが多かった。「検察の求刑から7、8割を掛けたものが一般的な判決」(裁判官経験者)とされており、より現実的な判断を下した層といえそうだ。
アンケート上の“法律のプロ”たちの意見が非常に興味深い。
32歳の男性裁判官は「責任能力については、犯行態様そのものや、その前後の行動などから肯定できる。すると、幻覚などを鑑定医に訴えたのは責任逃れのための虚言とみることとなり、心神喪失を偽ってまで罪を免れようとした点で、かなり非難の度合いが増す」とした上で、「DVなど被害者に一定の落ち度があることを考慮しても、15年程度の実刑はやむを得ない」と判断した。
実際の判決とアプローチはやや異なるが、量刑は一致した。
また、43歳の弁護士は死体損壊や遺棄、証拠隠滅工作を挙げて「責任能力に疑問を差しはさむ余地はない」と指摘。「社会に与えた恐怖心や人々の怒りの感情は無視できない」としつつ「前科前歴はなく被害者は1人。DVに耐え続けた被告の心情を察するにあまりある」と情状面に触れ、「懲役14年程度が相当」と結論を導き出していた。
■「無罪」の理由もやはり「鑑定」…歌織被告に同情意見も
一方、「無罪」とした意見で目立ったのは鑑定結果の尊重だ。
「もし鑑定結果が無視される判決だとしたら、精神鑑定の意味がない」(女性35歳)▽「検察側の鑑定人までが責任能力を否定するような鑑定結果を出すのは極めて異例で、刑事責任を問うことは不可能」(男性25歳)-。
4月25日には最高裁が、精神鑑定について「否定する合理的な事情がない限り、十分に尊重すべき」との初判断を示している。歌織被告の無罪もあり得たわけだが、実際の判決は「精神医学の専門家としての分析結果にすぎず、責任能力については総合的に検討した法的判断によって最終的に決定する。責任能力の判断は鑑定結果に拘束されない」。鑑定の評価がデリケートな問題であることを印象付けた。
アンケートの意見では、そもそも心神喪失や心神耗弱について理解が及んでいなかったり、両者を混同しているケースが数多くみられた。裁判員制度がスタートした際、こうした件をめぐって混乱が起きることは十分に予想でき、今後の課題になりそうだ。
このほか「無罪」意見では、「(DVに対する)ある種の正当防衛」(女性31歳)▽「緊急避難に相当する」(男性46歳)▽「DVによって逆に殺されていた可能性もある」(女性39歳)-などが寄せられた。
■「被告の顔見ていないから」「実際に裁判員だったらこうはいかない」…専門家の分析は
厳罰化を求める傾向が読み取れる今回のアンケート結果や、裁判員制度に向けた課題などについて、専門家らはどうみるか。
元裁判官で法政大法科大学院の木谷明教授(刑事法)は、「裁判官は審理を通じて被告の顔を見て、酌むべき事情も分かってくる。もちろん犯罪には賛成できないが、被告の気持ちに通じたり、感情を理解できたりすることはある。だから検察側の主張より軽くなってくる。被告の顔を全く見ていないない人が、犯罪行為の重大性だけをみて厳しくなるのは当然だ」と話す。
神戸連続児童殺傷事件の少年審判も担当した元裁判官の井垣康弘弁護士は、「普通の市民が被害者や遺族の気持を想像することは可能だが、加害者の立場に寄り添って物を考えることは大変難しいと思われる。重い罪を犯した『ややこしい』加害者を、なるべく長く社会から遠ざけようとの意見が簡単に多数を占めて、これが世論となり裁判所を包囲すると、厳罰化に進むだろう」と指摘する。
一方で井垣弁護士は、裁判員が今回のアンケート結果と同じように厳しい判断を示しても、それに同調するプロの裁判官が1人でも出てこないと厳罰にはならない、ともいう。
「だからこそ、裁判員にとってプロの裁判官を説得するのはとてもやりがいがあると思う。逆にプロからすると、アマチュアを説得するのはスリルのある仕事だ」
精神鑑定結果が事実上退けられた今回の判決については、「医師(鑑定人)から猛烈な反発があると思う。嘆くだけで終わるか、裁判員も含めて説得できる説明方法を開拓するのか、今後の医師たちの『戦い方』が見もの」とした。
「いろいろな意見が出ること自体は、『国民の感覚を生かす』という裁判員制度の趣旨からしても、意義のあることだ。ただ、マスコミ報道が厳罰化を推し進めている場合もあるので、裁判員が感情だけに流されないよう、客観的な報道が求められる」と強調するのは日大法科大学院の板倉宏教授(刑法)だ。
学習院大の藤竹暁名誉教授(メディア論、大衆心理)は、「無期や死刑を選択した人が多いといっても、裁判員になったときに同じような結論を出すとは限らない。インターネットの場合は責任がないので、感情的に判断した結果も含まれるだろう」とみており、「今回の事件が裁判員制度の対象になっていれば、懲役15年の実刑という判決と同じように、意外と妥当なところに落ち着くのではないか」と感想を話した。
※ユーザーの皆様に自由記載方式で書いていただいた意見を量刑別にまとめ、リン クさせてあります。ぜひご覧ください。