映画「休暇」で、謎に包まれた死刑囚・金田役を演じる西島秀俊
映画「休暇」で、謎に包まれた死刑囚・金田役を演じる西島秀俊
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(C)2007「休暇」製作委員会
『休暇』(6月7日より、有楽町スバル座、お台場シネマメディアージュほか、全国ロードショー)
監督/門井 肇 脚本/佐向 大 出演/小林 薫、西島秀俊、大塚寧々、大杉 漣ほか
たかが休暇のために、ヒトの命を奪う行為に加担するのか? 有給休暇を使い果たしてしまった刑務官の決断が、周囲の人々のこころに大きな波紋を呼ぶ……。原作は、文豪・吉村 昭の短編小説。生死と直面する死刑囚や刑務官たちの日常、そして親子3人のささやかな新婚旅行をとおして、それぞれの幸福、人間の尊厳、家族の絆を浮き彫りにする。





緊張感や集中力をもって、ずっと役に触れつづけるということを考えていました
映画を愛し、そして映画に愛されている俳優・西島秀俊さん。最近は、TVドラマやコマーシャルで姿をみかけることも多いとはいえ、やはりスクリーンをとおして出会いたいヒトだ。いまや日本映画に欠かせない顔の西島さんが、「骨太な、生きること、そして命についての映画」と語る新作『休暇』では、謎に包まれた死刑囚・金田役を体現。死と背中合わせになりながら、絵を描くことに没頭する男を、静かに、けれど圧倒的な存在感で演じきっている。
――今作への出演を決めた理由はなんでしょう?
「いただいた脚本がとてもすばらしくて、ぜひ参加させていただきたいと思いました」
――普段も、脚本で決めることが多いのですか?
「それは……たぶん、監督が決め手となることのほうが多いと思います。『休暇』の脚本の佐向(大)さんとは以前、別の作品でご一緒したことがあって。佐向さんの『まだ楽園』という作品も観ていたので、いつか監督としてご一緒するのかな、と思っていたくらいでした。こっちが勝手に思い込んでいたんですけど(笑)。今回、本当におもしろい脚本を読ませていただきました」
――脚本のどんな点に、とくに惹かれたのでしょう?
「僕は死刑囚がメインで出てくる映画をそれほど観ているわけではないので、実際にはどうなのか分からないですけど。個人的な感想でいうと、死刑囚がメインとなる多くの作品は、死刑囚がなぜ事件を起こすに至ったかであるとか、事件の裁判であるとか、死刑が執行されるのが是か非か、みたいなことが物語の核になると思うんですよね。この脚本に関しては、金田という男が、なぜ死刑囚になったのかがまるで描かれていない。もっというと、金田が何を考えているか、この男がいま何を思ってここで生活しているかをまったく描いていない。それがむしろ金田の闇を浮かび上がらせていて、すごく刺激的でシナリオとしておもしろかったです」
――誰とも絡まないシーンが多いですが、演技面で苦労されたことは?
「苦労というと、全編が苦労でした。死刑囚の気持ちには、どうやっても到達できないわけで。それはどうしようもないとどこかで思いつつ、それでも近づいていかきゃいけない。日々、とにかく頭で(金田の)気持ちを考えるのではなくて、何か近づくという作業をずっと緊張感をもってやるのは正直、苦痛でしたね。だから撮影期間が短くてよかったです」
――撮影期間はどのくらいですか?
「僕の部分は5日間くらいでした」
――その5日間は、ずっと役になりきっている状態なのでしょうか?
「僕は正直、役作りをして現場に臨むタイプではないんですね。実際、役になりきるという作業とは違うと思うんですけれど。理解するというか、役にずっと触れつづけるということを、緊張感や集中力をもってずっとやることを考えていました」
――実際に、元刑務官の方がアドバイザーとして参加されていますが、何か印象的なお話はありました?
「役作りとは関係ないかもしれませんが……。死刑囚はいま、死刑執行を予告されないんです。何か別の用事と聞いて連れられていくと、いきなり執行される場所だという。なぜかというと、かつて死刑執行を予告していたときに、前日に予告したら、自殺した方がいたらしいんですね。死刑執行の前日に自殺をするというのが、僕にとってはすごく衝撃的なことでした。その何が、といわれるとうまく説明できないんですけど」
――死刑執行の前日の態度や、出房したときの金田のアクションが、想像ながらとてもリアルに感じられて強烈でした。
「あれは脚本に全部書かれていて、逆にいえば、余計なことはいっさい書かれていないんです。ただ事実だけがぽんぽんと書いてある。だから金田という男が実際どう感じているか、いったい何を考えているのか僕には分からない。本当に真っ暗な闇みたいな男です。それでも、その役ができる。気持ちは分からないけれど、役を演じることができる。そういう演技の方法があるんじゃないかと僕はどこかで思っていて、そういう作業をやっていました。気持ちやバックグラウンドを考えなくても、何か役に触れることができる脚本(ホン)でした。ぽんと書いてあるト書きに、辻褄あわせのための理屈をつけられたかもしれないけれど、僕はつけたくなかったし、それでいいんだと思っていました」
――劇中、金田が聴く音楽は何かと気になってしまいました。
「そうなんですよね……そういうものもいっさい、公にされることはないと思います(笑)。誤解を恐れずにいえば、僕は金田という男を“モンスター”みたいな方向の役に演じていたんです。それを門井監督が、そうじゃないと。気持ちを説明するのではなく、もっと具体的にアクションを人間らしいカタチに寄せたり、編集したり。人間的な部分を増やしてくださって、ちょうどいいバランスになったと思います。それだけ脚本の金田という男は、まったく底知れない男でしたね」
――刑務官役の小林 薫さんは、どんな俳優さんでしたか?
「小林さんは……もしかしたら僕と違うタイプ。要するに、ずっと役を作り込んでいかれて、現場でも、自分が感じるリアリティをすごく重視して演技される方じゃないかと。実際、僕にも『西島くんはこれで何か気持ち悪くないか?』『こうやったほうがいいんじゃないか』といってくださって。共演しやすい、ありがたい先輩俳優さんでした。現場ですごく助けてもらいました。今回の金田は、『本当にできるのか?』という役だったので。もしうまくいっていることがあるとしたら、監督やすばらしい共演者の方々からいろいろなものをいただいて、なんとか集中力が切れずにゴールできたな、という気持ちです」
――そういう役をあえて引き受けたのは、俳優としての冒険心が強く働いたからでしょうか?
「それはあると思いますね。やはりなかなか挑戦できない役なので。僕はけっこういろいろな役をやらせてもらっていますが、死刑囚の役は初めて。そういう意味で今回、演じることができて良かった、得るものがたくさんあったと思います」
――以前、イランのアボルファズル・ジャリリ監督が「日本の俳優で知っているのは西島秀俊さんと麻生久美子さんだけだ」とおっしゃっていました。海外の作品に出演されるご予定は?
「僕の場合は、監督とのある縁で仕事をさせてもらっている、との印象がすごく強いんですね。たとえば海外の監督と仕事をするとしても、あまり変わらない。日本と同じように、ある縁で、ある作品があいだにあって、自分にとって魅力的な監督から『西島くん、一緒にやろうよ』といってもらえればうれしい。海外だから、という特別な意識はあまりないですね」
――国際映画祭の審査員を務められるほど映画好きと評判ですが、自分で監督する希望や予定はないのですか?
「それはないです。ボクはただフツーの映画ファンとして、映画を観ているだけなので。日々、映画を観ては衝撃を受け、感動したり、いろいろ考えたりしています」
――映画を撮ったり観たりしていらっしゃらないとき、オフでは何を?
「身体を動かすのが好きですね。それくらいでしょうか。でもありがたいことに、撮影の仕事などをいろいろやらせていただいているので、ずっとそうだったらいいなと。あんまりほかに、やることがないんですよね」
――釣りがお好きと聞いたことがありますが?
「(笑)僕、飽きっぽいんですよ。いろいろやるんですけど、結局、映画の撮影現場がイチバンで、あとはどこかで“それ以外のこと”という気持ちがあるんですよね」
――サーフィンもやられるそうですね。
「はい。楽しいなとは思うんですけど。僕の友だちに、本当に(サーフィンが)好きなヤツがいて、ヤツをみていると、自分は不埒に関わっているなと思いますね(笑)。映画の撮影が始まると、完全にそっちにいっちゃいますから」
取材・文/柴田メグミ


