袴田事件と改正・刑事訴訟法281条の関係
袴田事件と改正・刑事訴訟法281条の関係
- 裁判検証ができない、人権後進国の日本---
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080310/21924
「袴田事件」とは、1966年に静岡県清水市(現静岡市清水区)で発生した強盗殺人放火事件、そしてその裁判で死刑が確定した袴田巖(はかまだ・いわお)さんが冤罪を訴え、再審を請求している事件である。
袴田死刑囚は、死刑判決が確定してから死刑が執行されていない、現在最も古い死刑囚である。長期間死刑囚という身でいるため、拘禁反応を起こし精神的に障害をきたしている。
袴田事件は、長期間かつ長時間にわたる密室での取り調べの中、自白の強要が行われ、逮捕後20日目にしてウソの自白をさせられたとされている。猛暑の中、長い日だと16時間にもわたって取り調べが行われたという。
また、犯人だとされる自白以外の物的証拠が、警察・検察によりねつ造、デッチ上げられた可能性も指摘されている。
具体的には、
(1)凶器とされているクリ小刀1本で住人4人の刺殺という犯行は可能か
(2)逃走ルートとされた裏木戸からの逃走は可能か
(3)犯行着衣とされる『5点の衣類』は警察の捏造か
――の3点である。このうち、「5点の衣類」については、「サイズから見て被告人の着用は不可能」など、弁護側は多数の疑問点を指摘している。
これらの証拠に疑問を抱き、事件の冤罪性を最初に指摘したのは ジャーナリストの高杉晋吾氏である。
当時の週刊誌『現代の眼』に連載したのが契機となり、「無実のプロボクサー袴田巌を救う会」が発足している。
日本テレビ系の報道番組「NNNドキュメント」では、逃走ルートとされている裏木戸実験を行い、その裏木戸は到底人がくぐれない事を証明した。また、血痕のついた着衣は血液型が着衣ごとにバラバラで、同一人物が着衣していたとは考えられないこと、さらに、袴田さんの体型からして、着衣のズボンが小さすぎて到底履く事はできない、というものであった。
さまざまな人たちが警察・検察側の証拠を弁護側から取り寄せ、検証した。それによって、冤罪性の極めて高い事件という認識が広まり、支援活動が広範に行われている。
1981年からは、日本弁護士連合会が人権擁護委員会内に「袴田事件委員会」を設置し、弁護団を結成して支援を始める。
また、袴田さんが元プロボクサーであったことから、1991年3月11日、日本プロボクシング協会会長の原田政彦(ファイティング原田)が、後楽園ホールのリング上から再審開始を訴え、正式に袴田の支援を表明した。
当時はリング上でこのような表明をすること自体、異例であったという。
2006年5月には東日本ボクシング協会が「袴田巌再審支援委員会」を設立した。同委員会は、ボクシングの試合会場(後楽園ホールなど)で袴田被告の親族、弁護士や救援会関係者らとともに再審開始を訴えているほか、東京拘置所への面会やボクシング雑誌の差し入れなどを行っている。
さらに2007年2月、一審静岡地裁が出した死刑判決に関わった元裁判官・熊本典道氏(判決言渡しの7カ月後に辞職)が
「彼は無罪だと確信したが、裁判長ともう1人の陪席判事が有罪と判断、合議の結果1対2で死刑判決が決まった。しかも判決文執筆の当番は慣例により自分だった」
と告白。袴田さんの姉に謝罪し、再審請求支援を表明した。
これを機に、袴田事件の冤罪性が広く世間に知られることとなった。
こうした支援の動きは、袴田さんを有罪とする証拠が警察・検察によりねつ造・デッチ上げられたのではないかという猜疑心から始まっていると考えられる。
しかし、証拠がでっち上げられたものかどうかを確認することはできない。約3年前に、第三者が事件の証拠に触れることを不可能にする法改正が行われたためだ。裁判の証拠の流出を防ぐことを目的に行われた刑事訴訟法281条の改正である。裁判に提出された証拠を、裁判以外に使用する事を禁じたものである。
当時から、今でも、この法改正の危険性が認識されていない現状がある。つまり、この法改正によって、事件の証拠をメディアやジャーナリスト、支援者などが検証することが不可能となってしまったのである。
もし、事件発生当時にこの法改正が行われていたならば、ジャーナリトの高杉氏が証拠を検証したような事ができなくなり、とっくの昔に袴田さんの死刑は執行されていただろう。
しかし、法改正によって、袴田事件のような冤罪性の高い事件でも、発見・検証する事ができなくなった。これは、冤罪を助長し、無実の罪人が数多く生み出されてしまう可能性を秘めている法改正なのである。
現に、90年代のとある重大事件の証拠に疑惑が持ち上がり、テレビ局が弁護側を通じて証拠を入手する事を打診したところ、弁護側はこの法改正を理由に断ってきたのである。
この改正281条には、1年以下の懲役という刑事罰が科せられている。対象は、情報を入手した側ではなく、入手させた側(弁護側)だ。このため、弁護側が委縮して、自分の手がける事件を第三者に検証させるという基本的な行為すらできなくなっている。
さらに驚いたことには、被告人が自らの無実を訴えるために、証拠を掲載したチラシを配布することも禁じているのだ。これは、証拠の裁判目的外の使用を禁じたことに依拠する。
日本の司法制度は、人権とは極めて無縁の制度である。日本は、諸外国からはかなり遅れた「人権後進国」である。国連人権規約委員会は1998年以来、日本に司法制度の改善(取り調べの可視化)を勧告しているが、日本政府・法務省は一貫してこの勧告を無視し続けている。
日本政府・法務省は、ここ数カ月間、死刑執行を行い続けているが、遅れた司法制度を持つこの国には、死刑制度を持つ資格は無い。


